慶應義塾大学の大学院SDM、九州大学の地域政策デザイナースクールや日本科学技術振興機構のプログラムマネジャー育成講座さらにはいくつかの企業において、社会課題の解決や新規ビジネスづくりをご一緒させていただいております。
そんな中で、まずは価値を明確にすることが大事であるとお話ししております。最近地域創生などに取り組まれておいでの何人かの方とお話をさせていただく中で、改めて価値を考える機会がありました。
ビジネスにおいて、顧客価値は、以下の式で定義できます。「顧客が認識する商品やサービスに関わる価値」から「顧客が負担するコスト」を引いたものです。確かにこの通りなのですが、社会課題や地域振興などを対象とした場合に、例えば企業の誘致や観光振興のソリューションでは「顧客が認識する商品やサービスに関わる価値」は人によって異なります。地域住民であれば、地域が潤うとか活性化するのでよいと考える人もいれば、外部から人が入ってくるのは困ると考える人もいます。地域振興を考える自治体の方でも、地域振興の担当者であれば企業の誘致は地域への価値とみなすと思いますが、環境や福祉を担当しておいでの方は必ずしもそうは捉えない方もおいででしょう。産業関連でも相乗効果があると考える企業もあれば、競合が増えたと考える企業もあります。
▼顧客価値とは
また、価値を認識できるのかという視点からは、顧客は認識できないが提示されれば夢中になる価値に意味があると考えます。ということは提示されないと認識できないわけで、社会課題などは実現するまでにかなりの時間が必要になりますので、現時点で提示するはかなり難しいわけです。そうなると現時点で将来の価値を認識することは難しく、地域の皆さんは今のほうが良いということで、新しい取り組みには反対されるケースも多いということになります。
▼顧客の感じる価値とは
さらに困ったことに将来価値は、現在価値とは同じではありません。最近テレビのCMでも藤本美貴さんが投資知識編でお話しされている「今日10万円もらうのと、来年の今日10万円もらうのどっちがいいと思う」はまさに現在価値のお話ですね。
来年の10万円は、割引率(利子と考えてもよい。短期借入金では1~10%程度、仮に5%とする)で現在価値に引き戻すと
現在価値=将来価値÷(1+割引率)^n(年)
9.5万円=10万円÷(1+0.05)^1
10年先だと、6.1万円=10÷(1+0.05)^10
10年だと半分近くになってしまいます。実際、感覚的に10年先によくなりますと言われてもそれがどうなのという感じはしますね。せめて3-5年後くらいに成果が出ないと価値をイメージできませんね。
価値を実感するにはこんなにハードルがあるということなので、本当に難しいなあと思います。地域創成、地域振興を外部から入って進める場合は、これに加えて、地域の皆さんからは、あくまで他人事だよね。自分が地域にいないのにきれいごとばかり並べられても信頼できないよという心理的、感情的なハードルもとても高いですね。ならば地域に移住してやろうとしても簡単にはなじめないという側面もあります。
しかし、こんなハードルが高い中でも自ら地域に入り、成功されておいでの方も多くおいでです。お話を伺っていると、まずは地域の発展を真に願っていることが周りに伝えることができること、一緒に取り組む仲間がいること(地域に対して長期的な視点で考えられる人)、自らが地域に貢献できる独自価値を持っていること(外部とのつながりや他にない技術など)、そしてあきらめずに継続できる信念が大事なのではないかと感じます。
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参考
「正味現在価値:NPV(Net Present Value)」
正味現在価値=Σ(将来価値÷(1+割引率)^n年)-初期投資額
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